INTERN
インターンVol.3憧れのおとなに会いに行った学生に密着
3年次生 メイサ
「まおちゃんのお使い便」販売員 東 真央さん
買い物に行くことができない「買い物弱者」の問題に興味を持った“メイサ”こと田村さんが会いに行ったのは東真央さん。「地元・高知の生まれ育った町にも買い物弱者が多い」とのことで、その問題に真っ向から向き合っている「まおちゃんのおつかい便」に興味を持ちました。過去最年少のおとなである東さんのリアルな声に耳を傾けます。
「まおちゃんのお使い便」
販売員 東 真央さん
- 不安を抱えながらの起業
- 仕事を始めて自分も変わった
- 仕事の楽しいことと辛いこと
- やりがいとお金について
- 私には働く責任がある
- 辞めたいと思ったことは無い
不安を抱えながらの起業
メイサ 今日は取材を受けていただきありがとうございます。まず、この地域のことを聞きたいんですけど、この辺はやはりスーパーが少ないんですか?
東 そうやね。紀伊長島駅の周辺には何軒かあるけど、そこから川を挟んだ西側のほうは、一軒だけあった小さいスーパーが6年くらい前に無くなりました。車や自転車に乗れる人は川を越えてスーパーに行くけど、移動手段が無い人もいっぱいいる。働く場所も少ないから、子どもさんたちが家を出ていって、買い物に行けない人がすごく多いかな。
メイサ 私は今、大学3回生で、真央さんが移動スーパーの仕事を起業されたときと同じ年齢なんです。今の私に「経営しなさい」と言われたとしても、自分でビジネスをすることは考えられないのですが、始められた頃不安は無かったですか?
東 不安はあったけど、お父さんが背中を押してくれました。小さいときからお父さんが大好きで、お父さんの言うことは絶対みたいな感じやったんやけど、「高齢化が進んでいる町だから、すごくいいところに目をつけたと思う。長く続いてくビジネスになるんじゃないか」と言ってもらって。不安もあるけど、やろうかなって思いました。
メイサ お母さんは何か仰ってたんですか?
東 「せっかく大学に行ったんだから、ちゃんとした企業に就職して欲しい」って反対されたけど無視しちゃったね(笑)。
仕事を始めて自分も変わった
メイサ 移動スーパーの起業って何からスタートするんですか?
東 まず、加工された食品を売ったり、仕入れて売るっていうことの許可が必要やから、保健所に食品衛生管理の資格を取りに行きました。後は仕入先の確保かな。お父さんがずっと住んでいる町やから知り合いが多くて、家族が行きつけにしていた居酒屋のおばちゃんに「こういう仕事を始めようと思うんだけど、おばちゃんの料理がおいしいから移動販売用に何か惣菜を作って」という交渉に行ったりね。
メイサ 交渉とかコミュニケーションも最初から得意だったんですか?
東 いや、全然!仕事し始めてからかな。今は誰にでも好きなことをズバズバ言うような感じやんか?(笑)。仕事をするまではすごく人見知りで、大学にいたときも「近寄るなオーラを放ってる」と言われたりして、今とは真逆やった。
メイサ 人と接することがそんなに得意じゃなかったんですか?
東 得意じゃなかったし、慣れた友達とは自然に会話できるけど、そこまでに時間が掛かるというか。今は3秒あれば自然に話せるけど、昔は人が好きなのに、どうやって自分を出したらいいのかわからなかった。
仕事の楽しいことと辛いこと
メイサ 仕事をしていて一番楽しいことは何ですか?
東 やっぱり物が売れたときは楽しいなぁ。この仕事は物を売って収入が無かったら続いていかへんやん。例えばバナナを「今日は10個売れるかな」と思って仕入れて、ちゃんと予想通りに売れたときはめっちゃ気持ちいい。後は、お客さんとの距離が縮まるとき。スーパーのレジと違って、こちらからお客さんの所に足を運ぶから、結構早い段階でお互いが「業者とお客さん」という感じじゃなくなる。それを感じると嬉しいし、頼りにされていることが分かると、生きてる意味があるなぁって思います。人が好きやから、私が。
メイサ お客さんと肩を組んでいたり、下の名前やあだ名で呼ばれたりしていて、すごく距離感が近いですよね。
東 距離はすごく近いね。耳が遠いお客さんも多くて、テレビの音量も映画館ですかっていうくらいやから、玄関を開けて普通に呼んでもほぼ聞こえんのさ。だから勝手に入ってバッと扉を開けて「来たで」みたいな(笑)。お客さんにとっては、孫みたいなノリやと思う。
メイサ すごくいい関係性だなって思いました。逆に仕事をしていて一番大変なことは何ですか?
東 何年間かおかずを運んでいたお客さんが、施設に入っていったり、どこかが悪くなって病院に入っていったり、亡くなったりすることかな。やっぱり70歳以上の人とかも多いから。
メイサ なるほど…。
東 そういう場面に直面するときがめちゃくちゃ辛い。
メイサ 前日は普通に配達に行っていたのに、ということもあるわけですよね。
東 そうやね、本当の孫みたいに可愛いがってくれていた人が急に亡くなることが何回かあって、すごいショックやったな。
メイサ そうなんですね。
東 なるべくお客さんのお通夜には行くようにしているんやけど、行って写真を見るとぐっとくるなぁ。人はいつか亡くなるから、そのときまで一緒にいられた、そのお客さんに関われたということは、自分にとってはいいことやなと思う。辛いけどね。
やりがいとお金について
メイサ 仕事を選ぶ上で「やりがい」と「お金」ってあると思うんです。最初私はやりがいが大事で、好きなことを仕事にしたいってすごく思っていたんですけど、将来、家賃や奨学金を払っていくことを考えたら、「やりたい仕事でも給料少なかったらどうなんだろう」とすごく考えてしまって。真央さんはやはりお金よりもやりがいを重視しますか?
東 「おつかい便」を始めるときは稼ぎたいという気持ちもあったけど、誰かに必要とされているということが大きくなってきたかな。やりがいもあるし、「もう辞められない」というところまで来ているというか。もしやめたら「この人が困る」「あの人が困る」って、頭に浮かぶから。周りから見たら「すごく大変なことをやっているのにこれだけの儲け?」って思われるかもしれないけど、それは周りの感覚であって私は充分。お客さんはこれからもどんどん増えていくしね。
メイサ なるほど。仕事で大切にされていることって何かありますか?
東 やっぱりお金をもらっているからには、できるだけのことはしないといけない。「これは無理」と思わない限りは要望に応えたいと言うか。例えば大根1本を売りに行くとして、たった50円しか儲からなかったとしても、その先の売上にも繋がるし、そのお客さんからの信頼が生まれる。そういうことを大切にしているからお客さんが離れてくことがほとんどないかな。
私には働く責任がある
メイサ お仕事のスケジュールを見せてもらいましたが、仕事が詰まっていますよね。長い休みがあったら何をしたいですか?
東 冬やったらスキーに行きたいな。
メイサ 年末年始とかは?
東 年末はおせち作って12月31日に配達なんやんか。だから年末ギリギリまで仕事をして、年始は1月4日くらいまで休みます。
メイサ 足が不自由で、真央さんのご飯がないと生きていけないようなお客さんもいると伺いました。そういうお客さんにはどうされるんですか?
東 おせちを買ってもらって、他に日持ちのするものを最後の日に多めに買ってもらってるかな。
メイサ 真央さんが運ぶご飯で生活をされている方はたくさんいらっしゃるんですよね。
それについてどう思われていますか?
東 私がいないと生きていけない人がいるってすごいことだ思う。結果的に、やけど。身が引き締まるというか、やっぱり責任が出てくる。だから休むのがすごく嫌いで、休むと罪悪感がある。正月も長めに休みを設定したりするけど、絶対途中で仕事をしたくなってくる(笑)。
メイサ 起業されてから、ずっとそのルーティンですか?
東 徐々に増えていった感じかな。最初は「おつかい便」だけ始めて、その半年後くらいに居酒屋、2017年の9月にスーパーを始めた。だんだんやることが増えているけど、ぼーっとしているのがすごく嫌いやし。それはたぶん親譲りかな。仕事をすることが「大変なこと」じゃなくて、「当たり前」という感覚を刷り込まれた。漁業をやっているお父さんを小さい頃から手伝っていたけど、「うちの仕事を手伝っておけば、できない仕事なんてないぞ」って言われていて。その頃から嫌々やるんじゃなくて、「これが将来の自分のためになる」と思いながらやっていたのが、たぶん今に繋がってる。することがいっぱいあるっていいなって思ってるかな。
辞めたいと思ったことは無い
メイサ 今まで辞めたいと思ったことはあるんですか?
東 いや、無いね。私の性格上、始めたことを途中で辞めるのはすごく嫌。お客さんにも「若いしすぐ辞めると思った」って言われたけど、若い子だからって言われるのも嫌やし続けてきた。
メイサ 一生続けると思いますか?
東 どうかな。自分がお客さんのところをずっと回っているけど、私がおばあちゃんになったら無理やからなぁ。この町から買い物弱者がいなくなることなんて絶対にあり得ないから、今のスタイルが変わったり、後継者に引き継いだとしても、お客さんの所に食材を売りに行くことはずっと続けたい。どういう形かはまだわからないけど。
メイサ できるだけ長く「まおちゃんのおつかい便」は続けていくということですね。
東 そうやね。
メイサ 今日はお話しを聞かせていただいて、ありがとうございました。