SEASON6 INTERN #04
人の、街の、社会の役に立ちたい。
私にできることはなんだろう。
「人の役に立つこと、地域や社会に貢献すること」 これは、金ちゃんが働くことを考える上で大切にしてきたテーマです。小さな頃に芽生え、これまでの歩みの中で育んできたこの想いを、春から迎える社会人生活の中で形にしていきたい。学生生活の最後、自分の心にきざむ言葉を受け取るために、街と人とを見つめ向き合ってきた高橋さんの話に耳を傾けます。
NPO法人 RCB大口夢 理事長
高橋 隆一さん
国際コミュニケーション学科
金ちゃん
NPO法人 RCB大口夢 理事長
高橋 隆一さん
JR横浜線大口駅周辺にある飲食店の経営者を中心に発足した団体『RCB大口夢(おおぐちゆめ)』の現・理事長であり、発起人。大口で長く飲食店経営に携わってきた経験と培ってきた人脈をいかし、地域活性化店舗『TABIMA』を運営拠点に、地域食堂(子ども食堂・シニア食堂)、居場所支援、フードパントリーなど、さまざまな活動を行っている。「街を元気にしたい!」という想いに賛同し、たくさんの人がこの活動を支え大口の街を盛り上げている。

食べられる子、食べられない子
子どもたちの間に、一切の差を生み出さない

金ちゃん
はじめまして、大阪国際大学 国際コミュニケーション学科の金庫綾音(きんこ・あやね)と申します。私はこの春から金融機関で就職することが決まっています。そこで働くことを決めた理由の一つが、地域密着型で街の役に立つ取り組みを、通常業務と並行して行っているという点なんです。私にとって「貢献する」ということが働く上での一つ大きなテーマになっていて。『大口夢』さんの活動を知って、ぜひお話しを伺いたいと思いました。今日はよろしくお願いします。
高橋
よろしくお願いします。なんでも聞いてください。
金ちゃん
まず最初に、『大口夢』さんの活動のひとつである地域食堂・子ども食堂について、どのように運営されているか教えていただいてもいいですか?
高橋
うちは会員制なので、毎週土曜日・1日20食と数を決めて予約を取るんです。例えばテイクアウトかどうか、時間は何時で…という風に。お客さんとはLINEで全部やりとりしています。それから、平日は居場所支援っていうのをやってるのね。学校が終わったら子どもたちはまっすぐ『TABIMA』に来る。
ウチの冷蔵庫に入っているジュースやなんかは、本来売り物なんだけども、私は子どもたちには売りません。学校帰りなんだから、お金を持ってる子と持ってない子って差があるでしょう。持ってない子は買えない、となっちゃう。だから私は子どもたちには売りません。
金ちゃん
納得です。会員制ということなんですが、どういった方が対象になるんですか?
高橋
子育て世帯の家庭はすべて。小中学生のお子さんがいれば、収入に関係なく対象です。過去、「TABIMAに行って飯食ってるっておまえの家は貧乏か」と、子供同士の会話があったんです。それでもう、小中学生は全員無料にしました。親御さんの所得は子どもには関係ないですからね。そこでの差別化を一切なくしました。
金ちゃん
なるほど、子どもたちの間に差を生まないということを徹底されているんですね。

「腹減ってないか?」
自腹を切ってでも、
子どもたちには食べさせる

金ちゃん
子ども食堂、地域食堂は無料で食事を提供されていますが、食材はどうされているんですか?
高橋
おかげさまで、食品メーカーさん、フードバンクさんなどからかなりの寄付がくるんです。もう捌き切れないぐらい。フードパントリーといって、食材の無料配付も行っています。
金ちゃん
そんなに寄付がくるんですか?
高橋
時代の流れでフードロスという言葉もありますが。冷凍庫を余分に用意して、それでも入りきらなくて、隣が酒屋さんだから酒屋さんの冷凍庫・冷蔵庫を借りたりしてね。それをうちで小分けにして、地域食堂会員のご家庭に無料配付しています。
ただ、そうやって企業から無料で寄付されたものを、売買するところがある。これはルール違反だ。そうなるともう誰も品物をくれなくなるよね。
当然ながらウチにも視察に来られて、どういう活動をしているか、実際にやっている姿も見てもらっています。過去にどういうところから寄付を受けて、どうやって配付してといったデータも全部取ってる。それをもう何年もやっているから。そういう信頼関係ができてからだね。
金ちゃん
大事なことですね。寄付で成り立っているということは、食材が足りなくて出せないという状況もあるんですか?
高橋
ないです。自腹切ってでもやりますよ。この子までは無料だけど、この子からは食べさせられないなんて言えないじゃん。
金ちゃん
自腹を切ってでも…それは、苦しくなったりしませんか?継続するのが難しくなってくるとか…。
高橋
難しいのは毎月です。最終的に物を買うには当然ながら金銭が必要だからね。経済面は何とかやりくりをしながら、助成金の申請だとかいろんなことをやって何とか繋いでいくんだけど。
それでも、お金がないから食べさせられないとは言えないよね。子どもたちが、店のドア開けて入って来たら「腹減ってないか?」と。そこからだよ。

子どもたちは、
ちゃんとおとなを見ている

金ちゃん
利用している子供たちからは何て呼ばれますか?
高橋
おいちゃん(おじちゃん)。
金ちゃん
いいですね、なんか。頼られてるっていうか、心を開いてくれてるんやなって。
高橋
俺の孫みたいなやつばっかりだからね。
金ちゃん
でも、中には何を考えてるんだろう、なんで心を開いてくれないんだろう、喋ってくれないんだろうという、ちょっと対応しづらい子もいたりしませんか?
高橋
それはいますよ。そういう子はほっとくの、自分から話しかけてくるまで。でも必ず俺の目の届く範囲内にいるよね。慣れた子は好き勝手なところで絵を描いたりするけども。子どもは子どもで人の様子をちゃんと見てるんだろうね。
まず喋らないし、ジュースや食事を出しても離れるまで食べない。悩み事や困ってることはないかと聞いても、話さない。でも「好きな絵でも書いていいよ」ってタブレットなんかを預けると、下の方に「おじちゃん、ありがとう」とか書くの。そこからだよね、打ち解けてくるのはね。
金ちゃん
今はその子は普通に来てくれるんですか?
高橋
いや、そんなに変わるわけではないです。学校にも満足に行けていなかったりする場合もあるし、コミュニケーションをどのようにとったらいいかわからない子どもたちだから、あんまり近づくと逃げちゃうんだ。要するに親以外の人とあんまり会話したことがないから。
だから無理して近づかない、ある一定の距離までそっとしておいてあげるっていうのかな。

子どもたちの
「居場所」になっていることが嬉しい

金ちゃん
地域食堂の活動をしていて「やってよかったな」と思うことは多いですか?
高橋
実際にあった例で、ある子が食堂の開催日じゃない日に「おいちゃん」って店に入ってきて。「どうした?」って聞いたら、「うん、家出してきた」と。聞けば、お姉ちゃんと喧嘩したんだと。でもTABIMAに来てくれたら、LINEに登録してあるから「今ウチにいるよ」ってお母さんに連絡してあげられるじゃない。
金ちゃん
それからどうなったんですか?
高橋
やっぱりお姉ちゃんは心配だよね。自分の弟だから。まさか家出したとは思ってなかっただろうし。迎えに来て2人で帰っていったんだけどね。そういう子どもが行く場所がウチだっていうことが、俺は嬉しいよね。
金ちゃん
そういう子たちが気軽に来られるっていうことですね。子どもが頼りにしたいと思える場所を自分が提供しているというのは、すごく嬉しく感じますね。信頼されているんだなって。
高橋
気軽というかね、本当の「居場所」ですよね。
金ちゃん
逆に、想像と違ったこと、困ったこと・難しかったことはありますか?こういうことをしてあげたかったのに、うまくいかなかった…というような。
高橋
それは別段ないですね。逆に利用者の皆さんに教えてもらいながらやってきた、というのかな。最初から、子どもたちのために、ご両親のために「子ども食堂」をやろうと思って始めたわけじゃないんだ。「楽しくみんなが集まれればいいんじゃないの」ぐらいの考えしかなかった。だから、何かをしてあげているっていう気持ちはないよね。
金ちゃん
それは、何かしてあげようと期待して「違った」となるよりは、みんなが集まれたらいいなという気持ちでいた方がいいということ…?
高橋
いやいや、こういうことは何かを期待してやることではないからね。見返りは必要ないんです。なんていうかな…スペースと時間があるからスタートしたっていうだけ。食事も作れるし、冷蔵庫のあるものでならできるよ、って。それだけなんです。

目標はない。
やれるところまでやる

金ちゃん
これからの目標はありますか?今後のプランみたいなものは。
高橋
難しいね。やれるところまでやるだけかな。俺、退屈してないんだよ。
金ちゃん
心から楽しんでされているということですか?
高橋
いや、そんな気持ちもないよ。楽しみたいとかじゃなく「やれることがあるからよかった」という感じかな。
金ちゃん
生き方としてすごくかっこいいですね。
高橋
別に私1人の力じゃないからね。当然ながらスタッフやボランティアさん、それを支援してくれている地元の人たちがいるからやっていられるんであってね。
金ちゃん
高橋さんが活動をして、その姿に支援をしたくなる人がいて、互いに感謝しあって成り立っているんですね。この団体に支援したいと思わせる、相手に共感してもらえる理由はなんだと思いますか?
高橋
それはね、裏切らないでやること。TABIMAの場合でいうと、毎週土曜日は必ず開く。協力店舗もやってる。見ている人はたくさんいるでしょう。そういうことの積み重ねだと思う。今年7年目に入ったけど、口数多く喋るよりも、実際にやってる姿を見てもらえば、みんないつかは納得してくれるでしょう。
金ちゃん
途中でくじけたりはしませんでしたか?周りの人たちの協力を得るにも時間はかかりますし、信頼を得るまでの期間に何か挫折のような…
高橋
それは、目標値を決めすぎるからじゃないですか。例えば、「私は何年後にこういう姿になる」と目標を決めていると、目標に届かないと挫折するでしょう。
金ちゃん
そうですね。
高橋
目標はないの。「やれるとこまでやろう」だから。今日10人来た、やれる。30人来た、よしできる、と。そういう考え方を持てば、挫折っていうことはないよね。子ども食堂をやって、何年後にビルの一棟ぐらい建てようとか、そういう目標を立ててしまうと、目標に近づかない。目標の半分もいかないから挫折ですよね。だけど目標ないんだ。やれるとこまでやるっていう考えだから。

自分の好きなことを
やっている人は面白い

金ちゃん
4月から社会人になって、社会人プラス自分のしたいこと、社会貢献活動を両立していくことについて、アドバイスをいただけませんか?
高橋
金庫さんが自分で運営するのか、運営しているところに手伝いに行くのかですよね。いろんな分野があるから、いろんなところに行ってみたらいいんじゃないかな。その中で、さまざまな人・活動の仕方があるんだとわかってくると思う。
金ちゃん
何かしらの犠牲、経済的・精神的負担や自分の生活とのバランスが崩れてきたときに、これがあるからできるという支えのようなものはありますか?それが、来てくれる子どもたちかもしれないんですけど。
高橋
自分のできることをやればいいんですよ。今しんどいなってなったら、お休みをすればいい。
金ちゃん
お休みをすればいい…。
高橋
例えば、料理が好き、子供と会話するのが好き、お年寄りと会話してるのが楽しい。その中からボランティアの選択肢は出てくる。自分の生活もあるし、それから会社もあるんだから、お手伝いをするのは、自分が余った時間を費やしてやるんだ。私はそれで十分だと思うよ。どうしてもしなきゃならないとか、やり始めたんだから義務だ、という感覚ではない。
金ちゃん
あぁ、今わかった気がします。「やらなきゃいけない」も、ひとつの目標になってしまっているんですね。
高橋
そう。やれることだけやるっていうマインドです。それが継続してるということになるかもしれないし、途中お休みが入るかもしれないし。それでいいんだと思う。
金ちゃん
ありがとうございます。最後の質問になりますが、高橋さんにとって「面白いおとな」とはどんな人ですか。
高橋
自分のことを好き勝手にやっている人が、俺には面白く見えるね。仕事に追われてる、お金に追われてる人は、気の毒になっちゃうな。
金ちゃん
それはどういうことですか?
高橋
仕事っていうのは、こなさなきゃならないよね。達成しなきゃいけないよね。達成するために、自分の思う通りにできないことも多々あるでしょう。会社だとか、上司だとか、周りだとかいろんな問題があるんだろうけども、追われてる気がするような仕事の状態になると大変。
女性男性問わず「私は私の好きなことをやってるよ」っていう人は、周りを見ていても楽しく生活しているなと思う。楽しみは、人それぞれ。好きなことをできたらいいよね。
金ちゃん
すごくいいお話しを聞かせていただきました。ありがとうございました!
SUMMARY
おとなインターンの取材を通して、数年前から自分のテーマとして考えていた「貢献」することのイメージが変わりました。高橋さんの「まず前提に自身の現状に満たされていて、なおかつ幸せだと感じていること。そのうえで、その幸せを次の人に分け与えることが大切」という言葉がとても印象に残っています。貢献とは自分の時間やお金を削るもので、時にそれは自分を苦しめるかもしれない、と考えていた私にとって、高橋さんの考え方はとても刺激的でした。今この経験ができて本当に良かったと感じています。
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