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女性にとっての「働くこと」の
リアルを教えてください。
春から社会人になるみつこにとって、「働く」ことは、すぐ目の前にある未来。結婚や出産というライフイベントを迎えても、ずっと仕事をしていたい。キャリアアップして、管理職だって目指したい。女性の社会進出が謳われる世の中ではあるけれど、本当のところはどうなんだろう? 期待と不安でいっぱいのみつこの目に、ワーキングマザーとして活躍する宮下さんの姿が、理想の女性像としてうつります。女性として、企業人として、憧れの先輩がこれまで歩んできた道とは…。
NTT東日本
宮下 由梨さん
経営経済学部 経営学科
みつこ
NTT東日本
宮下 由梨さん
新卒入社後、2年の営業経験を経て、新入社員教育や人材開発、ダイバーシティ推進業務に従事。社内の女性コミュニティを立ち上げキャリアメンターとしても活動。2022年より総務人事部サステナビリティ推進室の課長となり、NTT東日本グループのサステナビリティの推進を担う。二児の母。
仕事もプライベートも100点を
目指さなくてもいい。
みつこ
大阪国際大学 経営経済学部 経営学科からまいりました、川満千尋と申します。本日はよろしくお願いします!
宮下
宮下と申します、今日はよろしくお願いします。…緊張してます?
みつこ
とっても緊張してます…!
宮下
(笑)そうですよね、私も緊張。どんなこと聞かれるんだろうって。大学4年生なんですよね?
みつこ
はい、この4月から就職します。私はこの先、結婚や妊娠、出産のようなライフイベントがあっても仕事をずっと続けていきたいという思いがありまして。女性として、仕事とライフイベントを両立しながら、キャリアを形成していくヒントを、ぜひ教えていただきたいです。
宮下
私は今、8歳と3歳の息子がいて、子育てをしながらフルタイムで仕事をするという生活をしています。昨年の夏からはマネージャーになって、いわゆる管理職として働いています。
私がなぜそうやって頑張るのかというと、今まで人生をかけて勉強してきたこと、学んできたこと、経験してきたことで、ちゃんと社会に貢献していきたいからでしょうか。
子供はとてもかわいい。でも、子育てや何かを理由に仕事を辞めてしまうのは、自分の中で納得がいかないというか…自分がこうありたい、こういう風になりたい、と思ってやってきたことを諦めるのはもったいないと思うんです。私には私の人生があるので。
みつこ
自分のやりたいことを大切にしながら、仕事にも子育てにも向き合っていくということでしょうか。
宮下
そうですね。でもそれはすごく難しいので。思考を切り替えることにしたんです。仕事を100点、育児を100点、家事を100点は諦めよう、と。
今までは、24時間自分のために使えていたわけですね。仕事を一生懸命頑張りたい時は、夜11時、12時まででもできました。でも、出産をすると体が思うように動かない、時間が自由にとれない。夜遅くまで仕事をしたくても子供と一緒に寝落ちしちゃうし、保育園のお迎えの時間になったらどうしても帰らなきゃいけない。やり切った!とか、うまくいった!っていう感覚がなくて、自分が思っているレベルに達せられないということに、すごくストレスや葛藤がありました。
みつこ
私も完璧主義みたいなところがあるので、わかる気がします。ちゃんとやらないと評価してもらえないと思ってしまったり。
宮下
それで、もうダメなんだなって気づいて、100点は目指さないことにしました。例えば今日中に資料を作り切りたいと思っても、6割7割で諦めるというか。自分でここまでって決めて、納得する、覚悟する。育児・家事も、私は60点でいいんだって決めて。全部100点をとろうとすると、疲れちゃう。
みつこ
ポジティブに諦めるというか、できない自分を認めるということですね。
宮下
そうだね。女性活躍というと、先輩の女性社員がモデルケースとして紹介されたりしますが、私が新入社員の頃は、スーパーマンのように、ものすごくフルパワーで育児も仕事もされている方が多くいらっしゃいました。それこそ、夜お子さんが寝た後に、資格取得のための勉強をします、とかですね。自分みたいに「普通の人」にはとても真似できない、無理だ、と思っていました。でも、意外とみんな「普通の人」だよなって。
当時は今より働き方の選択肢が少なかったから、そうやって働かざるを得ない背景もあったと思います。でも、これからの時代で会社や組織が成長していくためには、いろんな人が活躍できる環境が必要。育児中の女性社員、介護中の方、障がいを持った方、多様な社員がそれぞれの能力を発揮しながら活躍できる職場作りをしていきたい、そう思って仕事をしています。
画一的な価値観を持った集団は、仕事がしやすいんですよ。皆さんが同じ方向を向いて、一丸となって目標達成に向かって頑張れる。その方が、やりやすさはもちろんあるんだけど、社会がこれだけ多様化している中では、それだけでは企業として生き残れないんじゃないかな。
自分の価値観の中で、
新しいリーダー像を作る
みつこ
多様性という言葉が出ましたが、実際に現場で働いていて、宮下さんがジェンダーギャップを感じることはありますか? 世界から見ると、日本にはまだまだジェンダーの格差があるというニュースを目にしました。いろんな企業が、女性の社会進出や子育て支援に取り組んでいると思うのですが、女性としてとても気になっています。
宮下
働いていても、生活をしていても、ジェンダーギャップを感じるタイミングは多くありますね。ありがたいことに、私は比較的制度が整っていて、女性に優しい会社に勤めているので、すごく辛い思いをしている、困っている、ということは少ないですが、やっぱり、男性が多い会社ではあるので。
男性中心に作られている制度や仕組みを感じることはありますし、個人レベルでいうと、良かれと思って言ってくださったことが、私にとっては辛い言葉だったりするということもありますね。世の中に、そういう「差」があるということは理解した方がいいけど、その人たちを責めるというのも違う。思いやりや配慮を持てる世界にしていくための仕組みが必要なんだと思います。
これから社会に出ると、誰かの言葉に傷つくこともあると思いますが、その人はその人の価値観で生きていて、自分には自分の価値観があると、切り離して考えることは大事ですね。
みつこ
性別、年齢、価値観が違う人たちが多く集まる組織の中では、お互いの理解が大切だと思うのですが、相手を理解するために工夫していることはありますか?
宮下
相手の立場に配慮するようにはしていますね。女性として、という意味合いでは、私はマイノリティの立場を経験して、傷ついたこともありますが、一方で、私が知らないマイノリティの世界もたくさんあります。病気だったりLGBTQだったり、いろんな悩みを持たれている方がいたときに、同じ立場に立って完全に理解することはできないわけですよね。想像して配慮していくということしかできない。でもそれは、みんな同じでしょう?
男性に女性と同じことを経験してください、というのは無理な話ですから、想像力を働かせて、配慮する、思いやりの言葉を持つということが大事だと思う。自分も気をつけるし、お互いに配慮をしましょうね、ということは積極的に発信しているかな。
みつこ
日本全体で、女性管理職を増やそうという流れがありますが、出産や育児との両立の中で、スキルや経験不足に悩む女性がいるとも伺いました。宮下さんは、管理職もされていて、どのように感じていますか? 私も将来は管理職を目指したいと思うのですが…。
宮下
出産・育児のお休みで経験できない分、研修などで企業がスキルアップをサポートする、というのはあるでしょうね。個人としても、働ける時間が短い分、スキルアップのために努力をする必要はあると思います。
ただ、全員が画一的な同じ管理者である必要はないんですよね。これまでの管理者像って、模範となる人物だったと思うんですよ。リーダーシップをとって、自らの能力が高くて、みんなを巻き込んでいく力もある、というような。
でも必ずしも、管理職がスーパーマンである必要はないんじゃないかな。皆さんを支えたり、元気付けたり、能力アップを図っていくような、スーパーマンたちをたくさん育てる管理職がいてもいいんじゃないかと。
育児をしていると、自分が主役ではなく、子供たちに主役になって活躍してもらいたいとサポートに回ることが多くあります。職場でもメンバーたちを主役にして盛り上げていくことができたら、よりいいんじゃないかと思っていて。そういう新しい管理職像というのを作っていけたらいいなと、自分が管理職になるときに強く思いました。
みつこ
私も、リーダーシップやまとめる力に自信がなかったので…支える管理職というのは素敵ですね。
宮下
自分だけが頑張るんじゃなくて、周りの女性たちも一緒に管理者として頑張っていける機会を作れたらという思いで、今働いているところもありますね。
自分の人生だから、
面白く楽しく働きたい
みつこ
育児休職中に、社外での活動に積極的に参加されていたと伺いました。大変な時期の中で、スキルアップをしようとされた姿勢の根底にある考えを教えていただきたいです。
宮下
まず、育児休職中は育児をするための休みなので、休んだ方がいいと思うんですよ(笑)。その方がいいと思うんですけどね。その時は二人目の出産で、私自身が育児に多少慣れていたというのと、下の子が健康で手もあんまりかからなかったこともあり、じゃあできることをやってみようと思って、ボランティアや企業でのインターンシップなど、いろいろなものに参加をしました。
一つの会社に長く働いていると、他の会社がどうなっているんだろうって思うタイミングがあるんですね。それは別に今の会社が嫌だとかではなくて。一つの会社の中で与えられた仕事をするという生活が、あんまり自分のありたい姿ではなかったのかもしれません。じゃあもっと自分が面白く楽しく仕事をするには何ができるんだろうと考えて、いろんな経験をしてみたという感じですね。楽しく働きたかったんですよ。最初に言った通り、自分の人生なので。
みつこ
いろんな人と交流していく中で、得られたものはありますか?
宮下
そうですね。すごく刺激を受けました。私が見ていた世界はものすごく小さかったんだと気付けたのは大きかったです。
元々私が、女性が生き生きと働ける社会にするというところに興味があったので、女性が比較的多い場所に参加をしていたんですね。皆さん本当に多種多様な価値観を持っていました。
女性の起業家が作ったベンチャー企業にも行かせていただいたのですが、自分の知らない生き方があるんだなと。同じようになりたいということではなくて、尊敬をしたり、彼女の憧れる部分の一部を真似したいって思ったりね。
みつこ
コミュニケーションの場に積極的に参加することが大事なんですね。
宮下
私自身は人とコミュニケーションを取るのが好きなので、そういう場に自分から行くんですけど、みんながみんなそれをできる訳じゃないとも思っています。
性格的に行けない人もいれば、環境的に難しいとか、家族の協力が得られないとか、色々なパターンでそれが叶わない方もいらっしゃるじゃないですか。なので、私は機会を作るというのが大事だなと思っています。
意見交換できる場を作ったり、組織をまたいで交流できる場を作ったり。ちょっと参加してみようかなって、一歩踏み出してくれる人がいるだけで全然違うと思っていて。そういう、皆さんが来やすい場を作りたいですね。
楽しむために、
信頼できる関係性を築く
みつこ
宮下さん自身が生き生きと働くために大事にしていることやコツがあれば、教えていただきたいです。
宮下
一つは環境づくりでしょうか。自分が働く場所が心地いいものであるということは、すごく大事だと思っています。
私のチームは4人いて、仕事が厳しい局面になれば、意見を戦わせることももちろんあります。でもその後は切り替える。雑談をしたり笑い話をしたり、明るくコミュニケーションを取るように意識しています。チームだから、仕事をしていて楽しいなと思える環境にしたい。
もう一つは、楽しみを見出すことかな。これから就職したら、週7日のうち5日も働くんですよ、長くないですか?(笑)
みつこ
長いですね(笑)。
宮下
どうせなら楽しくやりたいですよね。それは、メンバーとのコミュニケーションもそうだし、中には、つまらない仕事もあると思うんですよ。でも、つまらない中でも、自分だったらどうしたら楽しくできるかなって考えて、楽しく仕事をしてほしい。
みつこ
宮下さんは、出産や育児で大変な時に、どうやって楽しさを見つけていったんですか?
宮下
自分が何に悩んでいるのか、誰に聞いたらそれは解決するのか。自分の中で問題を噛み砕いてみる、というようなことはすごく考えて動いていたように思います。
一人目を出産をした当時は、周囲に同じ立場で理解してくれる人がいなくて、誰にも相談できなかったんですよ。仕事もうまくいかないし、悪循環ですごく苦しかった。その時ふと、外に目を向けたんですよね。他の人はどうしてるんだろうと。
そうしたら、少し離れたところに自分と同じワーキングママの同期を見つけました。身近なところにはいなかったけど、少し視野を広げると相談できる人がいた。彼女に相談をしてから、どんどん輪が広がっていって。いろんなママたちの話を聞きながら、少しずつ楽しさを見出す方法を知っていきました。
みつこ
外に目を向けるというのはとても参考になります。逆に身近な人、例えばパートナーとはどのようなコミュニケーションを取られていたのでしょう?
宮下
そうですね、パートナーとのコミュニケーションは、お互いの意識のすり合わせというか、折り合いをつけていくという感じでしょうか。私はここまで頑張りたい、僕はここまで頑張りたい、と。それも子供の成長とともに、日々変わっていきますよね。子供との関わり方が変化すると、仕事と育児の比重も変わっていきますから。
みつこ
それをちゃんと共有して、すり合わせていくということですね。
宮下
私も夫もプライドを持って仕事をしているので、それぞれどうしても譲れないところはあります。だから、ぶつかりはしますよ。折り合いがつかないこともあります。でも、それはもう、都度話し合いをするしかないんですよね。
みつこ
いろんな方と信頼関係を築いていくことが大切だし、それは自分のためにもなるんだなと思います。
宮下
子育てをしていると、トラブルがたくさん起きるんですよね、当たり前ですけど。自分が経験したことないことも多いので、周りに助けてもらうことはすごく多い。一人じゃ育てられないから、それこそベビーシッターさんや家事代行の方とか、ここぞという時には、いろんなサービスを活用しながら。与えられた条件の中で、どうやっていくか日々考えています。楽しいことばかりではないけど、やっていかなきゃいけない。
じゃぁ、楽しくするにはどうするかですよね。捉え方ひとつで変わることもありますから。
たくさんの大人との出会いが、
自分の理想像をつくる
宮下
どうして地元を出てこようと思ったんですか?
みつこ
自立をしたいなと思って。どうせなら広い世界を見て、自分のやりたいことを見つけていけたらいいなと思って、沖縄から出てきました。
宮下
自立するっていいですよね。経済的に自立すると自由が手に入るじゃない。
自由を手にいれるには、時にやらなきゃいけないこともあるけど、好きな時に好きなことができるというのは、大事だなと思っていて。
育児中に、自由が奪われたような感覚にびっくりしたんですよ。出産してすぐはそれこそ24時間みてなきゃいけないでしょう? 仕事を始めても、家に帰ったら次の日の朝家を出るまでずっと子供だけになるの。たまに夫が見てるからって、友達と出かけたりもするんだけど、やっぱり子供のことが頭にずっとあるんです。熱を出したりしてないかな、泣いていないかな、ご飯食べれたかなって。
自分が自由でいるという感覚がなくなるストレスはすごく大きかったし、一番びっくりもしました。子供を持つってこういうことなのかって。少しずつ慣れて、バランスが取れるようになってきましたけどね。その時、自由ってすごく大事だと思った。
学生の間も、自由な時間がいっぱいあると思うんですけど、社会人は社会人で自由な時間も自由なお金もある。自分で時間を設計できるようになるじゃないですか。それはとても楽しいことだと思いますよ。
みつこ
宮下さんは、働きだす前に理想の女性像みたいなものはありましたか?
宮下
いつかは子供を産んで育てたいなとは思っていました。でもバリバリ働いてるイメージは持っていなくて。
みつこ
そうなんですね。
宮下
入社するときから、育児休暇や時短勤務といった制度が整っている会社だとわかっていたので、ゆっくりのんびり子育てしながら働こうかなぐらいに思っていました。私も地方出身なので、東京で働いたら格好いいだろうなとか(笑)。十五年前の自分は、今こんな風に髪を振り乱して働いているとは思ってなかったですね。
入社する時に、すごく楽しそうに仕事をされている女性の先輩がいらっしゃって、とても輝いて見えました。その姿は一つ目指す姿になっていたかな。女性とか男性とか関係なく、生き生きと楽しく働いてる人って魅力的じゃないですか。そういう人に出会うと、こういう風になっていたいなと思います。いろんな人のいいところを、ちょっとずつもらって理想像を作っていますね。
みつこ
私も、宮下さんの姿にとても刺激をいただきました。
宮下
ありがとうございます。でもこれは、数ある選択肢の中から私が選んだ一つの生き方であって、すべてじゃないから。これからの時代、もっと選択肢が増えていくはずだし、そうなって欲しいと思っています。みつこさんは、みつこさんの思う生き方を選んでいってくださいね。
みつこ
はい、ありがとうございます! 最後の質問になりますが、宮下さんが考える「おもしろい大人」とは、どんな人でしょう?
宮下
「楽しそうに生き生きしてる人」かな。
生きていると、嫌なことや大変なこと、いろいろあるんですけど。やらなければいけない「マスト」にばっかりとらわれていると、すごく息苦しくなってしまう。前を向いて、楽しいことを見つけて、生き生きと働いている大人…別に働いてるって、会社で働くことだけじゃなくて、いろんなところで、誰かの役に立っているっていうことだと思うんです。誰かの役に立つということを実践している人は、すごくいいなぁ、おもしろいなぁって思いますね。
4月から社会に出る上で不安だった気持ちを、宮下さんのお話を伺うことで和らげることができました。仕事をする上でも家庭や子育てにおいても、相談できる人が周囲にいることの大切さを学んだので、これから先の人生で壁にぶつかり悩んだ時には、自分一人で抱え込まずに人に相談する勇気を持とうと思います。今はまだ未知の世界で、経験して実感する難しさもあると思いますが、今回学んだことを行動に移し、宮下さんのように生き生きと楽しく働く女性になりたいです。
みつこの体験レポートはこちら
国際コミュニケーション学科
金ちゃん
NPO法人 RCB大口夢 理事長
高橋 隆一さん