INTERN
インターンVol.1憧れのおとなに会いに行った学生に密着
3年次生 キッシー
クリエイティブディレクター 小橋 賢児さん
一家相伝の人形作り文化があったという“キッシー”こと岸川くんの実家。伝統文化を未来に継承していくために必要なことはなんだろう?そんな疑問からたどり着いたのが、クリエイティブディレクターの小橋賢児さんでした。日本古来の文化をアップデートして、現代のエンターテインメントを生みだす、その発想の根源となる小橋さんの生き方に迫ります。
クリエイティブディレクター 小橋 賢児さん
- インプットとアウトプットのバランス
- 「have to」と「want to」
- チャンスはいつ来るかわからない
- 思い通りにいかないことを楽しもう
- 違和感は仕事のヒントになる
- 小さな変化の積み重ねが大切
インプットとアウトプットのバランス
キッシー 大阪国際大学の岸川智耶と申します。よろしくお願いします。
小橋 小橋賢児です。よろしくお願いします。ここで話しますか、会議室も固いから(笑)。
キッシー この間テレビでオフィスを拝見して、すごくかわいいなと思っていました。
小橋 ちょっと環境を変えることで発想も変わるからね。
キッシー 僕には、小橋さんはイベント関連のお仕事をされているイメージがあるんですが、母に小橋さんに会うって言うと「俳優の?」って驚いていました。
小橋 お母さんの世代だとそうかもね。
キッシー 小橋さんが俳優から今の仕事に転身されたきっかけは何かあったんですか?
小橋 俳優っていろんな役、つまりいろんな人の人生を演じなきゃいけないから、ある程度のインプットがなきゃいけないんですよね。でも、日本の芸能界の中で365日働き詰めみたいな生活をしていると、時間も無くなって、常に人に見られるようになって。
キッシー 想像できない大変さがありそうです。
小橋 気づいたら、いつも個室のごはん屋さんに同業者が集まって、人にバレないように生活してるっていう。今思えば、俳優っていう環境を言い訳にして、自分からインプットする行動を狭めちゃっていたんですよね。
キッシー なるほど。
小橋 だけど、アウトプットとしていろんな役を演じていかなきゃいけない。どんどん自分をすり減らしていく状態で、すごく苦しい時代でしたね。インプットとアウトプットのバランスが合わなくなっていました。
「have to」と「want to」
キッシー 俳優が苦しくなっていた頃に旅へ出たと聞きました。なぜ旅だったんでしょう?
小橋 自分を無くして、もっというと自分を殺して生きていたロボットみたいな僕が成功したとしても、それは僕の人生なのかって考えたら、すごく怖くなったんですよ。その恐怖から、まず環境を変えよう、パターン化してしまった暮らしから外れようと思って。
キッシー 何かきっかけがあったんですか?
小橋 ゲームクリエイターの人とキャンプをした時に「こんなことできたらいいな」って夜空を見て語っていたんですね。その時は素敵な発想だなって思うくらいだったんですが、後日突然「あの時のアイデアを実現したよ!」って、語っていたゲームを具現化して、しかもそのゲームが世界から評価されていたんです。
キッシー へー!おもしろいですね。
小橋 「クリエイターすげえ!」って(笑)。その体験が衝撃的で、世の中の可能性は無限だということを体感できたことが大きかったですね。まだ知らない世界を知りたいって純粋に思えたから。
キッシー それで旅に出られたんですね。
小橋 そう。旅先で同い年の男の子と出会ったんだけど、自分とまったく違う環境の中で生きていることを目の当たりにした時に、嗚咽するくらい号泣しちゃって。それは、家族を守るために必死に生きている彼と、自分に嘘をついて過去を嘆いている自分を比べた時の劣等感からなんだと思う。このままじゃダメになると思って、27歳の時に今までやっていた俳優の仕事を全部捨てて渡米しました。
キッシー 俳優のお仕事もたくさんの刺激や可能性がありそうですが?
小橋 俳優としての自分はいつのまにか全部「have to」になってました。
キッシー 「しなければならない?」
小橋 そう。子どもの頃から新聞配達もしたし、原宿のアクセサリー屋さんで働いたり、古着のバイヤーみたいなこともしたんだけど、それは全部「want to」からきてるの。昔はいろんなことにチャレンジしてた「want to」が、いつの間にか「have to」になり、そんな自分に悶々としていたんです。
キッシー 自分の想像とまったく違っていて驚きました。ご自身で「こんなの自分じゃない!」って、アメリカに飛び出していかれたイメージがあったので。
小橋 出来事を言葉にすると、決断力がすごいと言ってくれる人がいるんだけど、ある意味逃げるように行動に出た感じだから。でもこれは俳優じゃなくてもあるよね。本当は違うと思いながら、どこかでそう思わないようにしよう、見ないようにしようとすることって。
キッシー あぁ、確かにそうかもしれません。
チャンスはいつ来るかわからない
キッシー 仕事をする上で大切にされていることはありますか?
小橋 一つひとつの縁を大切にすることですね。
キッシー 例えばどういうことでしょうか?
小橋 僕がクリエイティブディレクターをしている「ULTRA JAPAN 」というイベントは偶然の出会いがきっかけだったんです。
キッシー そうなんですね。
小橋 いろんなイベントに一緒に行っていた友達が、実はULTRAのアジアの代表と親友で、イベントを韓国に上陸させる時「日本人のパートナーが欲しい」って話になったそうなんですね。そこで「誰かおもしろいやついないか」と言われた時、その友達が「たぶん賢児がいいと思う」って。それでやることになったんです。
キッシー いきなりですね。
小橋 最初いきなりSkypeで「今から日本人のDJを5人ブッキングしてくれ。1時間以内に」と無謀なことを言われて(笑)。でも初めての海外仕事だからやるしかないと思って、本番まで数ヶ月、今思えばやらなくていいことまでブワーっとやりました。
キッシー 熱量がすごいですね。
小橋 そのタイミングで、マイアミで開催される本家のULTRAを見ておきたかったので自腹で行ったんです。そこにエイベックス・エンタテインメントの社長がいらっしゃっていて、僕は「このイベントをぜひ、日本で開催してください」と、熱く語ったんですね。自分でやるというつもりで言った訳ではなかったんだけど、その情熱をいろんな人に伝えているうちに「じゃあ賢児がディレクターやればいいじゃん」という流れになりました(笑)。
キッシー 本当に人との出会いがチャンスにつながっているんですね。
小橋 強く思っていると縁が生まれてくると思っています。でもその縁はすぐ来るものもあれば、10年かかる場合もあるし、いつ来るかわかりません。でも身近にある縁をちゃんと一つひとつものにしていくことはすごく大切じゃないかなと思いますね。
思い通りにいかないことを楽しもう
キッシー お話を聞いていると思惑と違うことばかりですね(笑)。
小橋 そう、30歳で人生をやり直してから思惑なんかひとつもないの。
キッシー ビジョンみたいなものはあったほうがいいですか?
小橋 夢もビジョンもあったほうが絶対いいんだけど、それに囚われて「今」をないがしろにしたら本末転倒なんじゃないかな。旅に例えると、目的地を設定したとしても、途中でもっとおもしろい目的地を知るかもしれない。その時、最初の目的地に縛られていたら新しい流れに乗れなくなりますよね。
キッシー たくさん旅をしてきた小橋さんらしい考えですね。
小橋 僕は仕事もその考えで、「旅するように仕事をする」という感じですね。だから、5年後10年後に自分がどこにいっているかは今自分自身も想像がついていません。
違和感は仕事のヒントになる
キッシー 自分の家が伝統産業を営んでいたこともあり、文化を残すことについて興味があります。日本の伝統的な従来の花火大会とは違う「STAR ISLAND(スターアイランド)」について教えてください。
小橋 東京の老舗の花火屋さんと出会って、お互い新たな可能性に対して「もっとチャレンジできたらいいね」みたいな話はしていたんです。当時からニュースなどで「歴史的な伝統を守ろう」とよく言われていたんですけど、その言葉を聞けば聞くほど僕には違和感しかなかったの。
キッシー それはなぜですか?
小橋 伝統を守ることはめちゃくちゃ大事なんだけど、そもそも伝統を作った人達って、その時代の挑戦者・イノベーターなわけですよ。ものすごい熱量で作り上げたからこそ、感動してファンになる人がいた。強いファンが生まれたから、これを今まで残そうという動きが残ってきた。
キッシー そうですね。
小橋 これだけ色んなものが多様にある今、伝統だから守りましょうって言われても、若い世代からすれば古いものを見させられてるだけで、なんの感動もしないじゃん。
キッシー はい。
小橋 その人達の想いを紡ぐのであれば、やっぱり今の時代の才能だったり、テクノロジーを融合してアップデートしてあげないとね。多分、今まで残ってきてるものは、少なからずアップデートされて残ってきてるんです。
キッシー そうか、これからも文化に磨きをかけていくということが大切なわけですね。
小橋 そうですね。僕の発想は違和感から生まれることが多いです。ULTRAも「なんでこれが日本でできないんだ」っていう気持ちからスタートしましたし、そこから「やりたい」っていう動機が生まれたりしますね。
小さな変化の積み重ねが大切
キッシー 小橋さんがおもしろい大人だな、素敵な大人だなって思う人はどういう人ですか?
小橋 物事のいろんな見方ができる人ですね。「中道」っていう僕の好きな仏教の言葉があるんですけど、両極を知ることによって中の道、つまり自分の本質が分かるという意味です。
キッシー はじめて聞いた言葉です。おもしろいですね。
小橋 僕の周りのおもしろい大人たちを見ると、慣れとか固定観念とか同じ世界に留まることなく、常に違う世界を見ている人が多いですね。
キッシー なるほど。
小橋 「人生を楽しむ」っていうと、楽しむよりラクしちゃう人っているじゃない。本気で人生を楽しむには、自分の可能性や自分の宇宙をどれだけ作れるか。いろんな経験をして、本当に自分のやりたいことを見つけて初めて楽しめるものだと思います。
キッシー 確かにそうですね。
小橋 居心地がいいじゃない。いつもいる友だち、理解してくれる人達とずっといると。でも、全然違う環境、違う文化、違う考えの人達の前では理解してもらえない訳ですよ。その時に自分が何を思うか、何が出来るかっていう方がよっぽど大事だと思いますよ。
キッシー 自分も新しいことにチャレンジしたいと思うんですが、気がつくとつい居心地が良い場所、ラクな現状に留まってしまいます。色んな人と話したいなと思いながら、最近できていなかったので。これから…苦手だった先輩がいるんで(笑)。
小橋 いい、いい!それを自分で乗り越えて解決できた時に、むちゃくちゃ世界が変わるんだよ。どんな小さなことでも、自分の中ではむちゃくちゃ大きいじゃん。そのチャレンジはすごく大事。
キッシー そうですよね。
小橋 よく、「夢がない」とか「やる気がない」とか言うけど、目の前で解決していったほうがいいこともいっぱいあるんですよ。未来と過去に囚われずに、今と向き合った方がむしろ新しい世界が見えてくる。そういう経験が積み重なって、未来のやりたいことにつながっていくと思います。夢が無かった僕が、5年くらいの間に大規模なフェスや新しいイベントを手掛けたり、パパになったりしたのも目の前のことを一生懸命やってきたからだと思います。
キッシー もうすぐ留学でイギリスに行くんです。
小橋 いいじゃない!イギリスだったら色んな国にもすぐ行けるから、週末海外って考えた方がいいよ(笑)。
キッシー そうですね(笑)。
小橋 人生変わると思うよ。
キッシー 色々旅をしてきます。
小橋 そこでやっぱり、自分がワクワクするものをやってみるってことですね。
キッシー 断然楽しみになってきました。
小橋 楽しんで。むちゃくちゃ楽しんだ方が良いです。
キッシー 楽しみます!ありがとうございます。
小橋 ありがとうございます。